びしょの日記 (vipshota’s diary)

これはショタコン的視点からの雑多な日記帳です。まじめな記事が5割、ふまじめな記事が5割でできています。将来黒歴史になる予定です。

長編(1-4)

これまで得られた情報を精査し、僕達が下した判断は介入だった。 シグナルを長時間にわたり発し続けることは、通常の生理条件下ではありえないことが一番の理由だった。

翌日は、父親が出勤し、電車の特急電車に乗ったのを確認し、介入を開始した。 僕は面が割れているので、この地区の副官が親権の一時停止許可状を見せることになった。 僕は玄関から死角になる位置で待機する。

無線で「GO」の指示を受け、僕を含め4名の管理官が部屋に入り、少女の捜索にあたった。 玄関ですれ違った母親の顔は、俯きながらも少しほっとした様子を見せていた。

シグナル増幅器を手に探索すること数分、2階の真っ白な部屋のベッドに横たわる少女を発見した。 しかし、その姿はただの少女ではなかった。 髪はなく、前頭葉には切開痕が確認された。 生体反応はあるものの、意思疎通はできず、いわゆる寝たきり状態に近いと推測された。

この家庭に起きた様々な可能性(シナリオ)を想像しながらも、すぐに救急車を手配し、病院に搬送することになった。 運ばれていく少女を照らす日光はなく、曇天の空は悲しげだった。

ここからは後処理で判明した事実を述べる。

父親を降車駅で拘束し、調査のためSFCの詰め所に連行した。 我々が令状無しに拘束できる最長時間は12時間であり、それ以降は警察の管轄となる。 ほぼ同時に連行された母親とともに、調査が行われた。

4年前にうつ病であると診断されてから、両親の意思で少女を家から出さないようしたらしい。 最初は少女も同意の上でのことだったが、徐々に症状が悪化し、暴れる時期と一切反応しなくなる鬱状態を繰り返すようになった。 この過程で、両親ともに社会の体面を気にしたのだろう。 18歳になるまで少女を生かしながらも、症状を緩和させる手段を自ら探り始めたようだ。

父親は医療機器メーカーに務めており、本来医師に提供されるはずの睡眠剤横流しして少女に投与した。 だが、効果は一時的なものであり、長期投与によって効き目もなくなってきた。 次に試したのは古い文献を参考にした前頭葉白質切断術、所謂ロボトミーだったらしい。それがうまく行ったのかは分からないが、術後から意思疎通が難しくなり、食事と睡眠を繰り返すだけのほぼ寝たきり状態になったようだ。

その後も、取引先の医師から裏金を引き換えに様々な薬の提供を受けたが、回復の見込みがない状態が2年ほど続き、17歳になってからは18歳に達するまでは生かさず殺さずの状態を続けるつもりだったらしい。 この国では、18歳を超えて引きこもりであり、引きこもりの事実上の養育人が同意さえすれば、世間に知らせることなく処分できるという制度があり、それを使うつもりだったようだ。

だが、あと少しで18歳になるという時に管理官(僕)が母親に話しかけた。それを不審に思った母親は父親に相談し、喧嘩になったということだ。 だが、その頃には外界からの刺激にほぼ反応しなくなっていたにもかかわらず、シグナルが発せられたのは想定外だったようだ。

12時間の調査の後、両親を警察に引き渡した。 この国の法律では親権者が加害者で、子供が被害者の場合の処分は極めて軽い。事実上死に至らしめる行為であったにもかかわらず、この親に下される平均的な処分は社会奉仕30日といったところである。

また、病院に搬送された少女は18歳の誕生日を迎えた段階で僕達の管理下を離れることになる。その後の情報は僕達には知らされないが、病院側に処分されるか、献体として研究機関等に提供されることになる。

子供たちに投与されているナノマシンは、感情の起伏と生命の危機に反応してシグナルを発する。 その意味で、周りで喧嘩が起きたとしても、刺激に無反応であり、また生命の危機でもない状況でシグナルが発生するとは考えにくい。 現に、病院に搬送後様々な検査を受けたが、いずれも刺激に対する脳波の変化は微弱で、シグナルを発することはできないという診断だった。

ただ、これは僕の主観的な結論ではあるが、この少女は最後に家を出たかったのだと思う。親の話を聞き、自分がもうすぐ18歳になることを知った。 そして、処分されることを悟った。それならば、自らの意思でもう一度外に出たいと思ったのだろう。

発見当時、少女が垂れ流したはずの糞尿はきれいに掃除されていた。 少女の世話のほとんどは母親がやっていたはずで、母親は今でも少女のことを愛していたのではないかと思えて仕方がない。 だが、この件の管轄がSFCを離れてしまった今、再度の調査はかなわない。

この国の子供たちは様々な危機にさらされている。親の親権は強く、容易に殺され、処分される。それを制約するために子供管理局が存在し、科学力を持って子供たちを守っている。

僕達は、この少女を救えたのだろうか。分からない。分からないが、今すべきことは次なるシグナルを発する子供たちを救うことだ。